風に吹かれて 19(2014年5月10日)

佐々木委員長コラム「風に吹かれて」 19(2014年5月10日)

「生活大国」目指す成熟戦略を(その2)

「残業代ゼロ募る懸念/規制緩和政権前のめり(朝日新聞・4月23日・一面)、「労働時間の規制緩和/残業代ゼロの危うさ」(北日本新聞・5月1日・社説)、など安倍政権が新たな労働時間制度を作ろうとしていることが報道されました。

4月22日に開かれた政府の産業競争力会議と経済財政諮問会議の合同会議で、長谷川 経済同友会代表幹事が提案。内容は、第一次安倍政権当時、「残業代ゼロ法案」と批判を浴びて頓挫した「ホワイトカラー・エグゼンプション」のリメイク版です。また、労働者代表がいない諮問会議で同時に解雇の金銭解決も議論されています。3月すでに提出済みの労働者派遣法「改正」案と併せ、労働法改悪が進められようとしています。

安倍首相が、13年ぶりに連合のメーデーに参加。「働く皆さんが景気回復の実感を手に入れることができるよう全力を尽くす考えだ」と述べましたが、古賀会長は「働く者の犠牲の上に、成長戦略を描くことは許されない」と述べ、集会では労働者保護ルールの見直しに反対する特別決議を採択しました。

安倍首相は「戦後レジームからの脱却」と言いますが、「敗戦国日本の汚辱を葬り去りたい」との「歴史修正主義」の色合いが強く、国民に夢や希望を与える未来に向けた変革とは真逆の戦前回帰を予感させます。戦前の日本では、「人夫請負業(労働者供給事業)」がはびこっていました。今の労働者派遣の原型です。GHQは、「日本の民主化の大きな障害」と廃絶を決め、職安法が制定されました。当時問題とされたのは、「ピンハネ」「たこ部屋」「政治勢力の買収」「労働運動の弾圧」でした。現代の派遣の姿と重なる部分も多いのです。派遣の全面自由化は、時計の針を巻き戻す企てと言ったら言い過ぎでしょうか。そもそもこうした経済団体からの要請の背景には、「短期的利益を生まない設備や雇用はコストカットの対象」としか見ない風潮があります。しかし、ノーベル経済学賞を受けたゲーリー・ベッカーが「国の富の75%は人の中にある」と言ったように、教育や仕事に就いて訓練で身につける技能や知識こそ、中長期的成果を得るために最も重要視されるべきです。特に少子高齢化で労働人口が減少していく日本では、生産性の向上は不可欠。人材こそ資本です。継続的な業務に非正規などもってのほか。正規雇用を積極的に行う企業への優遇策や株主配当の上限規制などでGDPの8割以上を依存する内需拡大にむけ国民に広く富を分配すべきです。雇用流動化が必要というなら、どこでも役立つ一般的生産能力を高める教育充実や機会の均等をはじめとする施策こそ不可欠です。

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