日本国憲法が揺らいでいます。2007年に設置されていた衆院憲法審査会が2011年11月17日に開催され、「憲法改正」の国会論議が始まりました。衆参両院に設けられた憲法審査会には、主要な政党・会派が議員を送り、審査会はすでに両院で二十数回開催されています。各党のスタンスをみると、「護憲」を方針とする社民・共産以外は「改正」を否定しておらず、この点では翼賛会さながら。特に自民党や日本維新の会、みんなの党は、「改憲」を強く主張しています。
「憲法改正」を党是とする自民党は「日本国憲法改正草案2012年版」を発表し、同案を国会へ提出する方針を明確にしています。2005年版では、遠慮がちだったものが、今回は鎧をむき出し。また、自民党の憲法改正推進本部長の保利耕輔氏は、衆院憲法審査会会長です。
それでは何が問題なのでしょうか。憲法の役割の核心は、政府のできること、できないことを定めて、その行動を規制することにあります。世界的なスタンダードは、「憲法は権力を制限し、国民の権利・自由を擁護することを目的とするもの」とする近代的立憲主義です。自民党は、まず「憲法改正」手続きを定めた96条の発議要件緩和を目指すとしています。しかし、これは権力者が、自分達が守るべき法律を都合よく変えられるようにしようとするもので、立憲主義の破壊であり、「壊憲主義」というべきものです。ですから、近代的立憲主義に基づく憲法が確立された国では、3分の2や5分の3など通常の法律に比べ、相当高い改正要件を課しているのです。
こうした権力者の意向次第で、国民の基本的人権は制約されるというファシズム的世界観がこの憲法草案にはあちらこちらに埋め込まれています。例えば、表現の自由を定めた21条では、「前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的にした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」という条文を追加。憲法の擁護義務を定めた12条と99条を変え、権力者が守るべき条項を変質させています。特にひどいのは帝国憲法でさえ規定していた天皇の憲法尊重擁護義務をはずし、元首として国民の上に立つ特別の地位を与えようとしている点。そして、日の丸を国旗、君が代を国歌と定め、自衛隊を国防軍と位置づけ、防衛庁から省に昇格するとき国民に約束したシビリアンコントロールも専守防衛も海外派兵の禁止も破ろうしています。こうした基本理念が全体を貫いているのです。こんな「壊憲」が実現したら、それこそファシズム時代の再来です。